ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之さんから性行為を強要されたとして慰謝料などを求めた訴訟で、東京地裁(鈴木昭洋裁判長)は山口さんに慰謝料330万円の支払いを命じた。
判決が言い渡された12月18日、伊藤さん、山口さんはそれぞれ記者会見で、判決をどう受け止めたかについて語った。
「素晴らしい結果になったと思う」
Jun Tsuboike / HuffPost Japan
会見の冒頭で、判決への受け止めについて「実はどう結果を受け止めていいのかわからない状況です」と率直な思いを語った伊藤さん。
時折笑みを浮かべながら、「今回の民事訴訟というのは素晴らしい結果になったと思います」と振り返った。
伊藤さんは、2015年4月、警視庁に準強姦容疑(当時)で被害届を提出した。山口さんに対していったんは逮捕状が出たものの、逮捕直前で取りやめとなり、書類送検されたが翌2016年7月に嫌疑不十分で不起訴となった。
その後、2017年5月に検察審査会に不服を申し立て、司法記者クラブで会見を開いた。しかし、検察審査会でも「不起訴相当」と判断され、今回の民事訴訟に踏み切った。そして、今回の勝訴に至った。
「初めてこの場で会見をさせていただいた時は、その後どうなるのか、自分の私生活を含めてどうなるのかわからないまま、性暴力被害者が置かれている状況を改善したいという思いで会見をしました。今まで、こういった被害者が声を上げるということはなかったので、日本の皆様にはすごく異色に映ったのではないかと思います」。
伊藤さんは当時の心境についてそう語る。
判決では、山口さんの行為について、「酩酊状態にあって意識のない原告に対し、合意のないまま本件行為に及んだ事実、意識を回復して性行為を拒絶したあとも体を押さえつけて性行為を継続しようとした事実を認めることができる」として不法行為と認定された。
伊藤さんは、「刑事事件ではどういったことが精査されてあの結果が出たのか、わからないことだらけだったんですが、今回は裁判官の方からお答えをいただけたので、私にとっては有意義なことでした」と語った上で、友人や家族、支援者らに感謝を述べた。
山口さんが控訴する意向を受けた心境を聞かれると、伊藤さんは「このプロセスや、新しく知った情報をふまえて今後できることがたくさんあると思う。一つのピリオドではあるけれども、新しくスタートしたい」と思いを語った。
判決では、伊藤さん側の主張が認められたかたちだが、山口さんは判決後に「法に触れる行為は一切していない」と改めて強調している。
山口さんに対して伝えたいことを聞かれると、しばらく宙を見上げ、「彼を前にして、どういった気持ちなんだろうといろいろと考えていたんですけど...」と切り出した上で、「自分自身に向き合って」と思いを語った。
「やっぱり求めるのは、こういったことをオープンに議論できる場所なので。願うのは、彼自身が自分に向き合っていただいて、今後こういったことが起きないように、どんな構造的な問題があるのか、どんな状況でそういうことが起きるのか、一緒に向き合っていただいたら嬉しいなと思います。性暴力やセクハラは、パワー関係がアンバランスなところで起きる。最近では就活のセクハラについても言われていますけれども、いかにパワーが関わっているかということにも向き合っていただいて、一緒に解決できるようになったら嬉しいなと思います」
会見では、性暴力サバイバーに伝えたいことについても質問が及んだ。
伊藤さんは、涙を流しながら「自分に言い聞かせていることなんですけれど、自分の真実を信じてほしい」と語りかけた。
「Believing your truth, believing my truth. あそこに行かなければよかったんじゃないかとか、自分自身を責めてしまったりしますが、本当の傷というのは自分自身が一番よくわかっているので、そこを信じてほしい。どんなことが周りにあっても、それはその人の真実であるから」
2017年5月の会見以降、詩織さんは自著『Black Box』を出版したり、メディアの取材や講演登壇に積極的に応じたりするなどして、声を上げ続けた。
しかし、「アクションはいつでも起こせるから、まずは生き延びること」が大事だと声を強め、「元気になったら歩みを共にしてほしい」と呼びかけた。
「私は周りに支えてくれる人がいたから、なんとか生き延びられた。尋問の前は自分の命を失うような体験をしました。それくらい大変なことです。もし今日このメッセージを聞いてくれたら、今日まで生き延びてくれて本当にありがとう。元気になったら一緒に私と歩みを共にしてほしい」
「納得できない」
Jun Tsuboike / HuffPost Japan
山口さんは、伊藤さんの会見に先立って午後2時から都内で記者会見。記者会見には、北口雅章弁護士と文芸評論家の小川榮太郎さんらが同席した。司会は月刊Hanadaの花田紀凱編集長が務めた。
判決では違法行為が認められたが、山口さんは「私は法に触れる行為を一切していない」と会見で一貫して強調した。
そして、「客観的証拠に基づいて伊藤さんの主張の矛盾点を複数主張したが、我々の主張が間違っているという事実認定もないままほぼ無視されている。高等裁判所での裁判を通じて強く訴えていきます」と、控訴する方針であることを明らかにした。
また、今後「客観的証拠」を一般の人にも判断してほしいとして、現場から立ち去る伊藤詩織さんが映っているホテルの防犯カメラの映像や、伊藤さんのカルテについて公開する方針であるとした。
また、山口さんは、検察審査会の議決について触れ「この可能性について全く触れられていないのは、判決において私のもっとも不服とする部分の一つです」とした。
質疑応答では、いったん出された逮捕状が直前で取りやめになったことについても質問があった。「もみ消しを図ったのでは」とする疑惑について報道されていることについて、「(逮捕状が)出ていたかどうかすら知らない。天地神明にかけて(取り下げを)誰かに頼んだということはない」とした。
今回の民事裁判の判決では、名誉毀損を訴えた山口さん側の反訴は棄却されている。
また、小川さんらを記者会見に同席させた理由について「たくさんの政治家やメディアが彼女(伊藤さん)の側について、たくさんの報道を世界中でしている。小川さんは花田編集長と一緒に、私と全く無関係なところで、現場に行ったり、裁判資料を独自に読み込んでくださって、伊藤さんは嘘をついている、矛盾があると月刊Hanadaに寄稿してくださった」とした。
記者からは、「就活セクハラ」が問題になっていることに触れ、同意の有る無しに関わらず、就職活動のために会っていた伊藤さんと性行為を行ったことに道義的な責任をどう考えるのかという質問もあった。
山口さんは「(私は)犯罪行為をしていない。そこをクリアにしない限り、私の当時の行動が正しかったかどうかという立ち入った発言をしても誤解を生むと思います。ただあえて言えば、適切ではなかったと思っています。道義的な部分をここで掘り下げられてもお答えしません。わたしの、犯罪ではない行動を、あなたに詳細に謝罪するつもりもないし、ここで弁明する気もありません。違法でないことについて、ここで今議論することが適切でない。私は自分を守るために、犯罪者であるというなら別ですが、そうでないなら、お答えしません」とした。
2019-12-18 09:11:24Z
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