コミュニケーションの達人がコロナ禍で変わったこと、気づいたこと
コロナ禍によって環境が激変するなかで、他の大企業と同様に、約7000名の社員を擁するヤフーも完全なリモートワークになった。それに伴い、伊藤羊一氏も主戦場がオンラインに移ったそうだ。「この5か月間、私自身も数回しか会社に行っていません。ですが、ヤフーでは90%以上の人が以前と変わらず、リモートで仕事をしている状態です。社員はコミュニケーションもできています。実はこの数ヵ月で、自分は物理的に踏み込んだ形のコミュニケーションが苦手ということに気づいてしまいました(笑)」と語る。
オンラインの場合、1回ごとのミーティング時間が短くなり、具体的な要件を討議して解散になることが、伊藤氏は心地が良いそうだ。逆にいうと、コミュニケーションが仕事だからこそ、仕事以外のコミュニケーションに時間や労力を割くことを良しとはしないということも背景にあるようだ。
一方、日本PR大賞など、数多くの賞を受賞している三浦崇宏氏は、自身の会社でローテーションを組んで、3分の1ぐらいずつオフィスに出社してもらっている状況。打ち合わせはリモート会議が基本で、対面する場合は人数を制限しているそうだ。
三浦氏は「実は僕は現状に飽きてしまいました。もともと広告企画は論理だけで答えが出ないことが多いです。たとえば、いま世の中の何かに違和感がある?と聞いても、誰もすぐに答えられません。だから雑談をして、話を広く発散させ、その中でヒントを探ってます。オンラインでは、そういった余白がなくてやりにくい」と率直に語る。
同氏にとって、雑談は「思考のストレッチであり」マストなものだそうだ。会議でも最初に雑談から始め、周囲の空気を暖めてから、本題に入ることを意識しているという。
三浦氏は「打ち合わせには3つのタイプがある」と指摘する。1つ目は情報共有、2つ目は意思決定、3つ目はアイデアの打ち合わせだ。情報共有や意思決定はオンラインでも可能だが、アイデア出しは雑談が必要なので、できるだけ対面でやることにしている。
オンラインで雑談が難しいのは、画面が小さく、情報量も少なく、相手の表情が読みにくいからだ。視覚に入る刺激も少なく、技術的にも一度に全員で話せないし、相手との間合いがつかめないこともある。物理的な見え方や声は変わらなくても、微妙な反応が分かりづらい点も、雑談を難しくする。
三浦氏は「そういう点では、たとえばテレビでのワイプ芸のようなものが重要になる。小さい画面の中で、自分の身体性や非言語のコミュニケーションを行うことが求められるんです」と話す。
実は人にとって大事! 言語化される前のノンバーバルな情報とは?
この話を受けて、伊藤氏はリアルやオンラインから外れたところで、そもそもコミュニケーションをするときに重要なことが「うなずき」だと指摘する。「あ、あー、うん、うーんという言葉のテンポはすごく大事。伝わる、伝えるが本対談のテーマですが、それだけでも通じ合えることがあります」と語る。つまり話すことや言語化する際に、ノンバーバルな多くの情報を人は受けているということだ。言語のプロフェッショナルである両氏が、非言語の重要性を説く点が非常に面白い。しかし、逆に言えば人間のコミュニケーションにとって、言葉にできない表現のほうが、よほど重要になるということでもある。
もう1つ重要な点は「感情の報酬性」だと三浦氏は指摘する。感情こそ話者にとって最大の報酬になるという。
「新型コロナが流行してから、Webinarが増え、他社のセミナーにも参加させていただく機会が増えました。毎日のように参加しているとWebinarはすごく過酷な仕事だなと。画面だけを見て、とうとうと資料を説明しても、相手のリアクションがないとすごく疲れるんです」と三浦氏は心情を吐露する。
疲れてしまうのは理由がある。まず休憩のタイミングが一瞬もないこと。リアルなセミナーでは聴衆に話を振れるが、Webinarは1時間ずっと一方的に話しっぱなし。相手の表情がみえれば、うなずきや目の動き反応も分かるが、そういった情報がまったくないのだ。
「それが精神的な負担になっています。まるでブラックホールに吸い込まれる感じ(笑)。1ヵ月ぐらいWebinarをやって、本当に嫌になりました。相手の表情から生まれる感情の変化が、僕にとってはある種の報酬になっていて、発言の快楽を得ていたのです。それが失われて疲れてしまった」(三浦氏)
それに対し、伊藤氏は「Zoomなどで自分の顔が映るときは、とにかくハードロックのヘッドバンキングのように、頭を上下に振って盛り上げます。すると相手も同様にうなずいてくれるからです。しかしWebinarは別物です。自分がテレビやラジオに出演している感覚になって、見えない観客に話すように脳内で設定を変えています」とコツを披露する。
実際にラジオのパーソナリティも1人だけで話をしているのではなく、放送作家など誰かが面前にいて、彼らがうなずいている。そう考えると、いかにリアクションしてくれる受け手が重要かということに気づかされるのだ。
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