【有本香の以読制毒】
中国湖北省武漢市で発生した、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が止まらない。
中国では本土のほか、カジノ客の多いマカオや、香港でも感染者が確認された。香港政庁は28日、本土からの旅行者の入境全面停止を発表している。
29日現在、中国以外の感染状況は、タイが最多の14人、台湾とシンガポールで各7人、オーストラリア5人、マレーシアと韓国4人、アジアでは他にベトナム、ネパール、スリランカでも感染が確認されている。北米では、米国5人とカナダで2人、欧州でもフランス、ドイツで感染が確認された。
こうしたなか、英航空大手ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は29日、英国と中国本土を結ぶ、すべての直行便の運航をただちに休止すると発表した。英外務省が前日、中国本土への不要不急の渡航を避けるよう勧告したことを受けた決定だという。
一方、この現状にあっても、頼りにならないのがWHO(世界保健機関)だ。
28日には、テドロス・アダノム事務局長が、習近平国家主席と笑顔で握手する写真が配信され、世界をあぜんとさせた。
この会談で習氏は「WHOと国際社会の客観的で公正、冷静、理性的な評価を信じる」と語ったそうだが、どう聞いても、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しないよう、くぎを刺した発言としか思えない。
WHOは、SARS(重症急性呼吸器症候群)のときに続いて、今回も台湾を緊急会合に出席させなかった。そればかりか、先週、筆者が聞いたところでは、台湾側がWHOに報告を上げているにもかかわらず、WHOからのフィードバックは一切ないとのこと。
かくも露骨に中国の政治力が及んだ国際機関では、到底、世界の人々の健康保持に資する役割を期待できそうにもない。
一方、わが国でも武漢への渡航歴のない日本人の感染者が確認された。29日には、武漢地域に取り残されていた日本人の帰国第一便が羽田空港に到着。これらと並行して政府は、新型肺炎を指定感染症のリストに加える閣議決定をした。
現在までの各国の対応を見ると、わが国は2つの点で他国と明白に異なっている。
その第1は、英国、香港、台湾、フィリピンが何らかの形で行った中国からの入国制限を、日本は行っていないことだ。
出入国管理及び難民認定法(入管法)第5条には、指定感染症の患者や新感染症の所見がある者の上陸を拒否できる、と書いてあるが、これが実際に運用された前例はないという。
考えたくはないが、今後、生物テロ兵器による攻撃などの脅威が高まることが予想され、そのうえで前述の他国の例などを見れば、日本の今の対応は甘過ぎると言わざるを得ない。
第2の問題も深刻だ。指定感染症となったことで、新型肺炎の治療費は公費で賄われることとなった。このこと自体は悪くないが、この適用には国籍の別がない。仮に中国からの旅行客が発症し、日本の医療機関で治療を受けた場合で、その費用は日本の公費から支払われる。
香港が感染拡大を防ぐ目的のほか、香港でのみ受けられる無料治療を求め大陸から人が殺到する事態を恐れて、大陸からの旅行者入境をストップしたこととは対照的である。
新たなウイルスの流入は止めず、日本の公金は流出する一方。こんなユルくていいのか、日本!
というわけで、筆者が考えた打開策案を一つ、先週来、SNSなどで提案してきた。
外国人、特に発生国である中国からの旅行者が罹患(りかん)した場合の治療費については、日本政府がいったん立て替え、後日、中国大使館に請求してはどうか。
これを機に、指定感染症以外の外国人の医療費未払い分も、駐日大使に保証してもらうことをスタンダードにすべきではないか。ことに、日本の3倍もの経済規模を誇る大国には、それ相応の対応を求めねば、むしろ失礼というものである。
■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。
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2020-01-31 07:56:00Z
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