音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている 〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」。第35回は、生活の中で遭遇する様々な出来事に対する"自動思考"をテーマに、産業カウンセラーの視点から考察する。
この連載の第1回は「もし『死にたい』と打ち明けられたらー最も悲劇的な"自殺"について考える」でしたが、その後も悲劇的な事態が発生してしまっています。そこで再度この問題について考えてみたいと思いますが、今回は「自動思考」というものについて取り上げてみます。
自動思考とは、文字通り自動的に考えていることです。人は日々の生活の中で遭遇する様々な出来事に対して何らかの感情を抱きますが、その前に自動的に何かの思考を行っていることがあります。例えば、LINEやメールなどでメッセージを誰かに送った時に、返信がなかなかこないという場合に、まず自動的に「なにか気分を害してしまったのだろうか?」「嫌われているのだろうか?」などといった思考を行なうことがあります。実際にはっきりしている事実は「返信がまだない」ということだけですので、それらの思考には、実はほとんど何の根拠もなく、自動的にそのように考えてしまっているのです。これはその人の「考え方のクセ(スキーマ)」にも影響されています。スキーマは、その人が育ってきたこれまでの環境や体験などによっても培われます。そして、ストレスなどによって「うつ的」になっている時には、この自動思考が否定的なものになりがちです。それは特に「自分」、「周囲」、「将来」に対して現れます。「自分はダメな人間だ」、「自分のような人間とつきあいたい人などいない」、「このまま将来にわたって辛い気持ちが続くのだろう」といった形です。そうした思いが増大し過ぎてしまうと、メンタルに悪い影響が出るだけでなく、最悪の結果を生じさせてしまうことがあります。
しかし先述したとおり、それは考え方のクセなどによって自動的にそう思っているだけで、実はなんの根拠もない思考かもしれません。まずは、立ち止まってみて、問題を見つめ直すことが大切です。カウンセリングのひとつである認知行動療法では、そうしたアプローチも含めて問題の解決を試みます。まず、自分自身のストレスに気づき、問題を整理します。そして、それがどのような状況で起きて、それがどのように感情や行動に影響を与えたかを考え、自分の自動思考がその感情や行動にどう影響したかを調べます。また、自分にどのような自動思考のクセがあるのかということも意識しておきます。そして、自動思考と現実とのずれに注目して、自由で柔らかい視点を持つようにし、問題解決や改善の方法を考えます。
また、自動思考、スキーマでの偏りには、以下のようなものがあります。
・感情的決めつけ
証拠もないのにネガティブな結論を導き出してしまう。(「返信が遅い」→「嫌われた」など)
・選択的注目
実際は良いこともあるのに、些細な悪いことばかりに注目してしまう、など。
・過度の一般化
わずかなことから広範囲のことを結論付けてしまうこと。たったひとつの失敗から「自分は何ひとつうまくいかない」などと考えてしまうなど。
・拡大解釈と過小評価
ネガティブなことを大きく、良いことは小さく考えてしまう
自己非難(個人化)
・自分に関係ないことまで自分のせいだと考えてしまう。
・0か100か思考
白黒はっきりつけないと気が済まない。必要以上の完璧さを求めてしまう。
・自分で実現してしまう予言
否定的な予測をして、自ら行動を抑制し、その結果その否定的な予測を実現してしまう。「どうせ誰も自分に声をかけてくれない」というような否定的な予測をし、人との交流を避け、結果的にますます誰からも接触されない状況に陥ってしまう、など。
こうした自動思考や自分の考え方のクセを認識しておくことは、メンタルのバランスを保つためにも大切です。ただ、注意してほしいことは、「こうした考え方のクセがあるあなた」が悪いわけではありません。人は、それぞれその人らしく存在して良いのです。ただ、より自分らしく生きていくためにストレスを軽減し、柔らかい考え方を持ってみる、ということです。また「考え方を変えてみる」ということは、他者や社会からの要求に過剰適応するということではありません。あくまでも、自分らしくあるための内省なのです。心を「今」に向ける瞑想法である「マインドフルネス」もうつや不安などに対して有効です。これは「自分自身のことや、自分の経験について価値判断したり、比較したり、批判したりせずに、今、このときにおける自分の思考、感情、身体的感覚、および行動をありのままにとらえること」という説明もあります。(※)マインドフルネスの方法は検索などでも調べられますので、試してみることをお勧めします。
この連載の中で、主に海外の音楽業界やアーティストたちから、メンタルヘルスに関して多くの発信と行動があることを紹介してきました。最近でも、LAUVは、「Modern Loneliness」の中で「現代の孤独は、決して独りではないけれど、いつもうつな感じなんだ」という現代の状況を歌っていますが、その彼はマイクロソフトとのコラボレーションでメンタルヘルスの非営利団体「ブルーボーイ基金」を設立し、さらに「マイ・ブルー・ソウト」というメンタルヘルス支援のWEBサイトを立ち上げました。このサイトは日本語での対応も可能になっています。このように世界では同時多発的にアーティウトたちがメンタルヘルス支援に意識を持ち、行動を起こしています。日本でも同様の動きが起きることを期待しつつ、私も、今後も発信を続けていきたいと思います。
【参照】
「うつ病の認知療法・認知行動療法 (患者さんのための資料) 」厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業 「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」
(*)「弁証法的行動療法 実践トレーニングブック 自分の感情とよりうまくつきあってゆくために」Matthew McKay,Ph.d. Jeffrey C. Wood, Psy.D Jeffrey Brantley, M. D. 著 遊佐安一郎 荒井まゆみ 訳
LAUV、自身が設立したメンタルヘルスの非営利団体によるイベントを5月1日に開催、悩める人々の思いをシェアできる日本語対応のウェブサイトサービスもスタート!
https://iflyer.tv/article/2020/04/27/lauv-breaking-modern-loneliness/
手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』
発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029
本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。
手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。
Official HP
https://teshimamasahiko.com/
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September 10, 2020 at 09:30AM
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